ニューエイジ・ミュージックへの通路 第1回
近年ニューエイジ・ミュージックの再評価が緩やかに起きています。
2013年にLight in the Atticからリリースされたコンピレーションアルバム「I Am the Center: Private Issue New Age Music in America, 1950-1990 」辺りから徐々にその炎が灯り2015年にMariahのアルバムがPitchforkで取り上げられた事で注目され、2016年にはThe Numero GroupよりJoanna Broukのコンピレーションアルバムがリリースされ更に再評価の動きが加速したと推察します。また、Visible Cloaksの注目とAbletonによる彼等へのインタビューや、ガーディアン紙による特集も再評価の推進力になっているのだと思います。また同じ時期に自分もニューエイジ・ミュージックが気になり出しました。2017年にはVisible CloaksのメンバーであるSpencer DoranとMaxwell August Croyによって設立されたレーベルEmpire of Signsから吉村弘の「Music for Nine Post Cards 」がリイシューされました。
この動きがもっと続いて欲しいと思ったので今回は年代別にニューエイジ音楽と周辺音楽の紹介をします。
- 従来のニューエイジ・ミュージックはカウンター・カルチャーの影響を受けて発生したフォークミュージックによるプロテストソングやロックのような直接的な形式とは対照的に閉鎖的な限定された空間で用いられる事が多かったので一部の層にしか浸透しなかったジャンルでした。しかし、Matthewdavid's MindflightやLeaving Records等による80年代のニューエイジ・ミュージックの発掘によって音楽的発見へと関心が移行したのが今の再評価の動向です。またRvng Intl.設立者のMatt Werthによる意識的なアプローチもニューエイジ・ミュージックの再発見の要因になっていると思います。
- 1960年代〜
Tony Scott/唯是震一/山本邦山 - Music for Zen Meditation
ニューエイジ・ミュージックの最初期作品と言われてる所以はクラリネット奏者のTony Scottが箏曲にニューエイジ・ミュージックのキーワードの一つである調和を表すように唯是震一の琴の音に追従していく構成とポストバップと雅楽の融合を果たした山本邦山の実験精神にあると思います。
Verve Records 1965年作品
Gail Laughton - Harps of the Ancient Temples
ネオクラシカルなこの作品をバロック音楽とニューエイジ・ミュージックの混合として2019年から観た(聴いた)視点と考えた時に想起されるのはロバート・フロストの詩です。「未来からの視点」という"翻訳"によって失われる或いは変容される事があっても再発掘され再発見される事で忘れ去られるよりも永続する事に可能性の余地を感じます。
Light in the Attic Records 2013年作品
Paul Horn - Inside the Taj Mahal
それまでモード・ジャズに注力していた作風を変容させて作られた作品で今では彼の代表作として位置付けられています。
Epic Records 1968年作品
Epic Records 1968年作品
- 1970年代〜
Jordan de la Sierra - Gymnosphere: Song of the Rose
とぎれとぎれに音階の焦点が変わる音から美しいピアノの旋律による反復が響き渡ります。2014年にThe Numero Groupによって再発された1977年の作品。
The Numero Group 2014年作品
Ariel Kalma - An Evolutionary Music (Original Recordings: 1972-1979)
人工的でDIYな波の音にノイズとテープの視界で構成されたシンセが軽快でニューエイジ・ミュージックの入門に適した作品です。
Rvng Intl. 2014年作品
Lino "Capra" Vaccina - Antico adagio
1978年に作られたこの作品は2014年にDie Schachtelからリイシュー盤がリリースされました。パーカッションを多用しフリーインプロヴィゼーションやミニマリズムを彷徨う超現実的な空間が広がります。
Die Schachtel 2014年作品
Laraaji - Celestial Vibration
この作品がリリースされた1978年当時にはEdward Larry Gordonという名義だったのが2017年にリイシュー化された際にLaraaji名義に統一。Brian Enoがプロデュースした「Ambient 3: Day of Radiance」で有名なLaraajiが今の新たなニューエイジの純粋な発見に貢献している事は間違いないと思います。この作品は長尺ながら触れやすい作品です。
Soul Jazz Records 2017年作品
Iasos - Inter-Dimensional Music
70年代のニューエイジシーン重要作の一つ。空間を抽出したようなフィールドレコーディングや様々な打楽器から成る連環に惑溺を垣間見る感覚が明瞭に表現されています。
Unity Records 1975年作品
- ニューエイジ・ミュージック周辺音楽
Cluster - Sowiesoso
4作目にして路線を変更して作風に時折なだらかな暖かみと充足感が充満しタイトルも観念的なものが並んでいます。次作の「Cluster & Eno」でヒンドゥスターニーとアンビエントの結合の過程で「Zum Wohl」のようなニューエイジを通過する作風になったのだと思います。
Sky Records 1976年作品
Stephan Micus - Implosions
ヒンドゥスターニーをアヴァン・フォークのニュアンスで取り入れたアルバムでシタールやツィターなどによって浮き上がる悲哀を長い時間をかけて慰撫していくような過程が表現されてます。
JAPO Records 1977年作品
森下登喜彦 - 妖怪幻想
水木しげるが創り出した妖怪に音をつけ解説を読みながら音楽が楽しめる夢のような作品でこんなコンセプトで作られた作品(アール・ブリュットをイメージした音楽とか)ならもっと聴いてみたいです。アルバム自体はシンセの極端な使用よりエレクトロアコースティックのような雰囲気が特徴的です。
Victor Entertainment 1978年作品