2019 朗々音楽ツウシン log 4
6月に入りジェイ・ポールやブリアルのシングルリリースと自分の好きなアーティストによるリリース量が凄まじいので今回は自分の好きなアーティストに絞ってちょっとずつ10枚(シングルやEPを含みます)紹介します!
AKUA - Them Spirits
オルタナティブR&Bが活気に溢れている最中であってもディスコが衰退した80年代に優しく耳に寄り添ったコンテンポラリーR&Bは更新を続けています。80年代後半にシンセポップとドリーム・ポップの影響を経て表出したアンビエント・ポップの持つ婉麗な趣旨の凝縮が特徴的です。ロンドン出身のAKUAの表現を聴くとコンテンポラリーR&Bが様々なジャンルと結合して(ネオソウル、アート・ポップ、ファンク等)変容してきた連関を垣間見れます。
Peggy Gou - Moment
2016年に「Art of War」でデビューしたドイツを拠点に活動する韓国ソウル出身のアーティストPeggy Gou(ペギー・グー)の新作は、自身が創設したGudu Recordsからリリースされました。2018年に話題を呼んだEP「Once」から流動的に展開されるような(アルバムアートとともに)サウンドで「Once」でディープ・ハウス、エレクトロ、ニュー・ディスコの構成を引き継ぎつつバレアリック・ビートの特色が加味されているのが特徴的です。
Jai Paul - Do You Love Her Now / He
2013年に制作されていた楽曲をリークされ勝手にバンドキャンプで販売された事件からJai Paulが、新作をリリースする事は無く滞っていた。しかし、6月1日に自身のTwitterで新作を仄めかすツイートをした翌日にこのシングルがリリースされました。リークされていたアルバムも正式に「Leak 04-13 (Bait Ones)」としてリリースされました。新曲のサウンドは「Leak 04-13 (Bait Ones)」にあったオルタナティブ・ R&Bに連なるインディトロニカな要素は後退し、シンセ・ファンクの要素が濃い作風に仕上がっています。
Burial - Claustro / State Forest
ブリアルは2015年のシングル「Temple Sleeper 」でスピード・ガラージを掘り起こし、そこにハードコア・ブレークスの要素を付け加え、そこから関連して2017年に「Subtemple」というダーク・アンビエントやフィールドレコーディングを多用したアンビエントサウンドが特徴的なEPをリリースし2018年にThe Bugとのコラボレーション・プロジェクトであるFlame 1サウンドをちょうど一つの集合体にしたようなサウンド性になっています。
ケンモチヒデフミ - 沸騰 沸く ~FOOTWORK~
水曜日のカンパネラのメンバーで作曲を手掛けるケンモチヒデフミのソロアルバムが8年ぶりにリリース。タイトルにもあるようにフットワークやジュークを下敷きに展開されています。しかし、近年のRian Treanorのような硬質なフットワーク/ジュークサウンドというより近年台頭してきているジャンルSingeliの持つアップテンポな雰囲気をも含意に持つサウンド性で、Nihiloxicaがインダストリアル・テクノでSingeliを表現しているのに対してケンモチヒデフミ氏はSingeliやHamaのようなスペース・シンセを用いてフットワークやジュークを表現したような新鮮な音を届けてくれてます。
Rainer Veil - Vanity
モダン・ラブの新作リリースはマンチェスター出身のアーティストであるRainer Veilのファースト・アルバムは、彼らが2013年にリリースしたEP「Struck」にあったブロークン・ビートやアンビエント、フューチャー・ガラージといった要素の変容が窺えます。UKベースを主軸に当時のClams Casinoに代表されるクラウド・ラップをフューチャー・ガラージとして変換した音の濃度を薄めずに展開されます。
Sufjan Stevens - Love Yourself/ With My Whole Heart
今回のシングルがインディトロニカなポップ性が強調されてるのは「The Age of Adz 」のフォークトロニカ性を彷彿させます。ルカ・グァダニーノ監督作品「君の名前で僕を呼んで」の映画用に作られた「Mystery of Love」にも見られるように登場人物のオリバーとエリオの関係をタイトルに示唆される意図をアレクサンドロス大王とヘファイスティオンの関係に重ねさせていたりする理知を楽曲に持たせるだけでなくときに「John Wayne Gacy, Jr.」のような痛みを伴うコンテクストを含ませた楽曲もSufjan Stevensの魅力です。
Yosi Horikawa Spaces
大阪出身のエレクトロニックアーティスト。2013年のファースト・アルバム「Vapor」から6年越しにリリースしたセカンドアルバムとなる「Spaces」は、前作同様フィールド・レコーディングによる鳥瞰的なアンビエントとIDMに二分化された中に表出される音の客体化がもたらす心地良さは依然変わりなく鳴っています。しかし今作は、「Vapor」にあった季節に伴った人工物(蝉の鳴き声と自転車)に対して「Crossing」に見られる人工物のサンプリングは四季を不明瞭にし心地よさの中に痛痒感が伴う瑞々しい作風になっています。
Basses terres - Naked Light
フランスのBrothers From Different Mothersからリリースされるウズベキスタン出身のアーティストBasses terresの新作は、前作「A Darker Rain」のような体系化されたサウンドとは全く異質な構成となっていて、近年にニューエイジが再考された事とポスト・インダストリアルの機械的な美学、そして日本語で囁かれる(Mica LeviのDelete Beachを想起させます)ASMR要素が蠢きながらトライバル・アンビエントと不気味で奇怪な諸相が新しい音の萌芽を感じさせます。
Big Thief - U.F.O.F.
ブルックリンを拠点に活動するバンドBig Thiefのサード・アルバムは、ビル・キャラハンが1988年に始動した名義Smogやエリオット・スミスを彷彿させ、その断片をAlex Gのサウンドとも呼応させてたファースト・アルバムやセカンド・アルバムと一変してLowやRed House Painters 、Dusterに代表されるスロウコアのサウンド性とインディ・フォークの持つ複合的なエッセンスがSongs: Ohiaに見られる音楽性にも通じているように思います。