幻想の音楽逍遥ツウシン

散文的な考察と諸々の文化を交えて音楽をディスクガイド的に書いてます。

2019 朗々音楽ツウシン log 3

まだ5月の終わりですが、途轍もない変な(素敵な)アルバムが大量に、しかも重要な過去作のリイシューやコンピレーションなども大量にリリースされているのでなるべく急いで列挙していければと思っています。今回もそんな素敵な音楽を10枚紹介します!

 

Kehlani - While We Wait

6LACKやMusiq Soulchildが参加してる事からオルタナティブ・R&Bやネオ・ソウルの要素が強い今回のミックステープですが、Kehlaniの前作のポップなクラウド・ラップな構成よりもクラウド・ラップの持つチルウェイブの要素を維持したままコンテンポラリーなサウンド(Ty Dolla $ign参加の「Nights Like This」に顕著)とヴォーカル色も全面的に強調された魅力的なミックステープです。

 

Afrikan Sciences - & the Kick Drum is Default

サンダーキャットのようなニュージャズとファンクトロニカを合成させジャズ・フュージョン性を加味させたサウンドに対してアフリカン・サイエンシズはブロークン・ビート*1の人工的差異とアフロビーツに見られる微量のアフリカ的エッセンスがIDMと合わさって表現されています。

 

Basic Rhythm - On the Threshold

2000年代後期からダブステップやUKファンキーから発展し様々な枝分かれを経て今の諸相に変化したUKベースのアーティストであるBasic Rhythmのサード・アルバムを聴いて、それまでアルバムを通して一つの塊として表現されていた音が、今回のアルバムは静的なチップチューンや断片的なグライムサウンドがUKベースという一つの記号から多義的に表現されています。

 

GFOTY - IfYou Think I’m a Bitch You Should Meet GFOTY

2016年のアルバム「Call Him a Doctor」では、バブルガム・ベースに加えてデジタル・ハードコアやパワー・ポップの要素も加わった多彩な内容だったのに対して今回のEP「If You Think I’m a Bitch You Should Meet GFOTY」は、スカウス・ハウス*2や、ユーロ・トランスを連想させるサンド面が際立ちます。

 

Jamila Woods - Legacy! Legacy!

前作「HEAVN」は、ネオ・ソウルの可能性を楽曲の端々にまで行き届かせ焦点を敢えて置かない構成だったのに対して今作の「Legacy! Legacy!」では、はっきり歪みのかかったトリップホップの影響が見てとれます。「HEAVN」の楽曲である「Lonely」にもその要素の輪郭が窺えましたが今作はよりはっきりと方向性の焦点を置いた作風に仕上がっています。

 

Weyes Blood - Titanic Rising

Weyes Bloodが2007年以降アルバムを出し続けてから、多彩なサウンドの変遷が見られます。初期にはダーク・アンビエントやポスト・インダストリアルが強調され、「The Outside Room」ではアヴァン・フォークなサウンドが色濃く出ていました。しかし前作「Front Row Seat to Earth」では、ポップな要素が強調される事で、過去作との差別化が行われる事で、今作では、それまでの要素の一つだったフォーク要素を廃し前作の特徴の一つであるバロック・ポップを前面に出し、さらにCaterina Barbieriのようなプログレッシブ・エレクトロニックなサウンドも加味された作風に仕上がりってます。

 

Wilma Vritra - Burd

Wilma Vritraは、ソフィストィー・ポップ/アンビエント・ポップアーティストのWilma Archer(Slime)と、OFWGKTAのメンバーであるPyramid Vritraによるアブストラクト/エクスペリメンタル・ヒップホップアーティストで「Shallow Grave」に顕著ですがラップが主体というよりはアルバム全体をインタールードに至る曲まで大きな「実験性のスコップ」で掬ったようなサウンドが特徴的です。80年代の怪異なシティー・ポップやアフター・ディナーのようなアート・ポップサウンドを取り入れたような作風になっています。

 

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Kenji Kihara - 日日是好日

2018年にInner Islandsからリリースした美しいフォークロアの中に宿ったようなアンビエントサウンドを有するアルバム「Scenes of Scapes」から好きで聴いています。こちらの作品はMIROKU COFFEE主催の出張喫茶店日日是好日」用に演奏した作品でメロディーラインを意識したアンビエントという意味では作風は対極にありながら、今年Sonic PiecesからリリースされたDeaf Centerのアルバム「Low Distance」のアプローチにも通ずる作品だと思います。

 

Amber Mark - Mixer

2017年から連続してEPをリリースするAmber Markの新しいシングルはLIVのAndrew Wyattが書き下ろし。今回のシングルはオルタナティブR&Bの要素が抑えられファンク色が強くコンテンポラリーR&Bの要素が前作同様のポップ・ソウルの魅力を保持したまま表現されています。

 

Yanga - Libérate, Volumen 1 & 2

Meridian Brothersに顕著なデジタル・クンビアの発展に伴って周辺のジャンルにもその影響が見れるように思います。Names You Can TrustからリリースされたYangaのアルバムにはデジタル・クンビアのようなダブステップやハウスの要素は薄いですが音の端々にエレクトロニックな要素が窺えます。

*1:テクノやヒップホップ界隈のアーティスト達によって発明されたプログラミングによるドラムやベースの意識的な強弱(シンコペーション)を特徴とする1970年代のジャズファンクのルーツを持つジャンル

*2:リヴァプールでハウスの影響から開発されたジャンル