幻想の音楽逍遥ツウシン

散文的な考察と諸々の文化を交えて音楽をディスクガイド的に書いてます。

2019 朗々音楽ツウシン log 1

聴かれて欲しい今年リリースした素晴らしい音楽(もう聴かれているアルバムも含め)をジャンル不問、順不同で10枚ずつ継続して紹介していきます。

 

 

ぷにぷに電機 - 未来中毒

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2010年の同時期にOPN(Daniel Lopatin)や18 Carat Affairによってスタートしたとされてるヴェイパーウェイヴの潮流は海外アーティストによる日本の80年代音楽(主にシティーポップ)の再発見によってフューチャーファンクに変容した側面からまた再び流動を始めたと考えます。ダフト・パンクによって再燃したニュー・ディスコ(個人的にはジョン・タラボットがきっかけと信じています)の要素を受けて加速していった時期とは少し違ってきているように思います。

 

VC-118A - Inside

昨年Vrilの「Anima Mundi」のLPをリリースしたDelsinからInward Contentとしても活動しているVC-118Aのサードアルバムがリリースされたので、聴いて改めてDelsinはModern Loveとダブテクノにおいて双璧を成すレーベルだと再確認しました。VC-118Aの特徴はエレクトロ(エレクトロ・ブギとも呼ばれてます)の要素がビートにシームレスに移行していくと同時にダブテクノの輪郭が見え隠れしたサウンドにあります。

 

Yves Jarvis - The Same but by Different Means

ネオソウルの系譜からは今の所一番離れた場所から鳴っている音楽だと思います。1分にも満たない楽曲の中にフィールドレコーディングでリヴァーブやディレイをダブのような効果として流用したようなサウンドDavid Sylvianを想起させる中にサイケデリック・ソウルなアプローチが混入する実験的な試みが22曲詰まった瑞々しい一枚です。

 

Mòn - Guadalupe

ローマを拠点に活動するMònのファーストアルバム。昨年から気になっていて聴くとAnna Meredithが注目された事で波及したかのようなチェンバーポップと初期Two Door Cinema Clubの軽快さも感じさせる作品です。

 

Solange - When I Get Home

近年、ネオソウルやオルタナティブR&Bは、クラウドラップやグライムの影響を受けて拡大していきましたが、ソランジュの今回のアルバムでは、Playboi Cartiが参加してはいますが、そのような影響は極力抑えられAnita O'Dayのようなボーカル・ジャズに見られる古典的なサウンドに「Way to the Show」のような現代のシンセ・ファンクやサイケデリック・ソウルの要素を取り入れた作品で19曲という曲数の割に、短い尺に収まる曲が多いので長さを感じさせない構成で豪華なアーティストもさることながらインタールードに至るまで実験的な試み(サウンドコラージュアーティストのStanding On The Cornerが参加している事から明らか)に富んだ作品です。

 

V/A - 環境音楽 Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990

海外レーベルによる日本の80年代音楽の再発掘を経過観察した中で生まれたこのコンピレーション・アルバムは、刷新されたニューエイジ音楽を聴くきっかけになる作品になり得ます。従来のニューエイジ音楽が流行っていた70年代にブライアン・イーノはこのジャンルを好ましく思っていなかった事は有名ですが、インターネットを媒介にしてアーカイブが前提とされ産出された音の多様性と可能性は当時のニューエイジからはかけ離れた音楽になっていてより深度を深める事ができる一枚です。

 

William Basinski - On Time Out of Time 

昨年はLawrence EnglishとのコラボレーションアルバムをリリースしたWilliam Basinskiの新作は、2曲構成(デジタルリリースでは7つのパートに分かれています)のアルバムで従来のアルバムからは一変して内省的で過剰な静寂を含んだサウンドが特徴です。The Disintegration Loopsシリーズが外面的な崩壊であるなら、こちらの作品は内面的な崩壊と言えるかもしれません。意識的なメロディーの希薄性が前作「Selva oscura」に含まれていたのに対して今作「On Time Out of Time」は暴力的な静寂と美しいメロディーラインが併存して鳴り響いています。

 

柴田聡子 - がんばれ!メロディー

2017年の「愛の休日」ではくるり岸田繁のプロデュースや山本精一の作詞(リスが来た)で更に気脈を通わせながら調和のとれたサウンドだったのが、本作ではよりポップな仕上がりになっています。佐藤奈々子のジャズ・ポップを用いてシティーポップを表現したような軽快さや、五つの赤い風船のフォークの中の曖昧なアンビエンスな要素も含まれています。

 

Holly Herndon - Eternal

2015年にプラットフォームをリリースした際にアルカとは別のデコンストラクテッド・クラブを表現しケイト・ブッシュビョークの系譜の輪郭をなぞりながらグリッチ・ポップと結合し異質なアルバムをリリースした彼女が本作ではフットワークアーティストのJlinをゲストに加えて5月にアルバム「PROTO」がリリースされます。

 

Angel Bat Dawid - The Oracle

Kamasi Washingtonによるスピチュアル・ジャズの更新の流れを受けてアヴァンギャルド・ジャズにも影響が現れ、Angel Bat Dawidのような魔術的な音の中に漂泊する郷愁が表現されたサウンドの運動が今後も楽しみです。