ジョジョとパンク・ロック漂泊〈ジョジョの奇妙な冒険シリーズ〉第3回
今回は帽子と拳銃が特徴的なキャラクターであるグイード・ミスタのスタンド「セックス・ピストルズ」から当時のパンクと現在のパンク、そこから関連するアーティストや派生していった音楽を紹介します。
グイード・ミスタについて
メンバーの中の主戦力としてもムードメーカーとしても優れたキャラクターで他のメンバーの援護役でも信頼に長けた登場人物です。その一方で、「4」という数字を忌み嫌うジンクスに捉われる性質があり「4」という数字に「遭遇」してしまうと、異常に消極的になったりする性格でもあります。この性質は彼の幼少期に関係していて、彼の少年時代は、「単純に生きる」という人生観から、複雑なことを考えるという事をなるべく避けて生きてきました。複雑なことを考えることで「恐怖」を心の中に引き入れることになると考えていたからです。しかし、ある時、夜道で女性が車内で殴られている場面に遭遇した事でそれまでの人生観を変え人間にはそれぞれ「向かうべき道を歩んでいくものだ」という事を学ぶ。
ジョジョの奇妙な冒険 54巻より引用
このエピソードで重なるのがベルーフ(召命や天職)英語だと(コーリング)という概念です。社会学者のマックス・ヴェーバーが「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」の中で書かれた事で有名です。ヴェーバーによればマルティン・ルターの翻訳によって天職という特有の意味が生まれたと書いていす。
この「天職」という概念の中にはプロテスタントのあらゆる教派の中心的教義が表出されているのであって、<中略>神によろこばれる生活を営むための手段はただ一つ、各人の生活上の地位から生じる世俗内的義務の遂行であって、これこそが神から与えられた「召命」>Beruf<にほかならぬ、と考えるというものだった。
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」より引用
天職という語に召命と世俗(Secularity)の職業という意味が並存していて世俗の職業そのものが神からの召命だという意味を持っています。
過去に荒木氏はインタビューでキリスト教(プロテスタント)の学校に通っていたと言っていて*1聖書は毎日読んでいたといいます。その事から作中にも自然とそうしたニュアンスが描写の端々に反映しているのかもしれません。
セックス・ピストルズについて
グイード・ミスタ自身が所持する拳銃の中に住むスタンドです。6発分にそれぞれ独立した存在であるが故に自意識が強く食事をしないと働かない性質を持ちますが、連携を取りそれぞれの役割に応じて行動し成果を挙げメンバー達に貢献します。6人で一つのスタンドです。
ジョジョの奇妙な冒険 50巻より引用
名前の由来となったのは同名のグレーター・ロンドンのバンドであるセックス・ピストルズです。
ロンドンにおけるパンク・ロックの第一人者としてその後のパンク・ロックから様々な音楽に影響を与えた功績は後に後述します。元々メンバーのグレン・マトロックがマルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドが始めたショップ「Let It Rock」で働いていました。同メンバーのスティーヴ・ジョーンズやポール・クックにとって50年代のテディーボーイのスタイルとソーホーのポルノショップからアイデアを得たフェティッシュ性の強い要素が他の店とは比べ物にならないくらいに魅力的でした。そうした接点からマクラーレン等が彼等をプロデュースするに至ります。
「Never Mind the Bollocks Here's the Sex Pistols」1977年作品
このパンク・ロックが台頭した事で60年代に波及していたガレージ・ロックの役割*2に気づきます。それは60年代末にパンク・ロックの前駆的な存在としてプロト・パンクアーティスト*3の存在(アメリカだとザ・ストゥージズ、パティ・スミス、ザ・モダン・ラヴァーズ、MC5など)を見るとよりガレージ・ロックの功績の重要性を掴みやすいです。パンク・ロックが下記のようなアメリカのアーティストから出発した一つの要因としてこうしたプロト・パンクと位置付けられるアーティスト(ザ・ストゥージズ、パティ・スミス、ザ・モダン・ラヴァーズ、MC5など)がアメリカに集中していた事も考えられます。
Richard Hell & The Voidoids
Richard Hell & The Voidoids - Blank Generation 1977年作品(シングルのリリースは76年)
Ramones - S/T 1976年作品
The Bizarros - Punk 45: Burn, Rubber〜 2015年作品
ほどなく同時期にイギリスやオーストラリアでもパンク・ロックが産まれるのですがアメリカにあったプロト・パンクの要素よりガレージ・ロックとサーフ・ロックの要素を色濃く受け継い継いだサウンド面が際立ちました。
イギリスにおけるパンク・ロック最初期アーティスト
The Damned - Damned Damned Damned 1977年作品
Eddie and the Hot Rods - Teenage Depression 1976年作品
The Vibrators - Pure Mania 1977年作品
これらのパンク・ロックがその後のジャンルに多大な影響を与えながら変容し、広く様々な方向に波及していったのですがその一つがハードコア・パンクです。ハードコア・パンクは1970年末から1980年始めにかけてパンク・ロックの影響を受けて確立したジャンルです。パンク・ロックの持つ反体制イメージを維持しながらパンク・ロックよりも重く速く、そして短い曲が特徴的です。
ハードコア・パンクの代表
Germs - GI 1979年作品
Dead Kennedys - Fresh Fruit for Rotting Vegetables 1980年作品
Descendents - Milo Goes to College 1982年作品
Black Flag - Damaged 1981年作品
Agent Orange - Living in Darkness 1981年作品
Adolescents - S/T 1981年作品
パンク・ロックは後にメタルやニューウェーブ、ポスト・パンクに至るジャンルに影響を与えTitus Andronicusに見られるロック・オペラやポスト・ハードコアと結合しました。現在のハードコア・パンクはマス・コアやメタルコアと結合したり様々なジャンルと結び付いたり長尺なクラスト・パンク*4に変容したり複雑に展開しています。
The Armed - Untitled 2015年作品
The Armedの近作ではデジタル・ハードコアの要素が加わったり多層的なサウンド面が特徴です。2015年の作品はハードコア・パンクとマスコアのサウンド面が強調されています。
Totem Skin - Weltschmerz 2015年作品
90年代初頭に始まったエモと同時期に分派したスクリーモの要素とメタルコアの要素を折衷したようなサウンドが特徴的です。
Nux Vomica - S/T
長尺のクラスト・パンクとアトモスフィリック・スラッジ・メタルの怪作です。2017年に解散したのですがメンバーのティムはもう一つのバンドRotting Skyで活動しています。
Raspberry Bulbs - Privacy 2014年作品
パンク・ロックの王道を継承しながらポスト・パンクや所々ダーク・アンビエントのエッセンスを内包したアルバムです。
White Lung - Deep Fantasy 2014年作品
Superchunkのノイズ・ポップとパンク・ロックや近年のポスト・ハードコアのニュアンスが加味されメロディーにも重点が置かれた作品です。
Exploded View - S/T 2016 年作品
ポスト・パンクの更新と共にジャンルの豊かさから生まれたアルバムでクラウト・ロックやダブといった要素がサイケデリック・ロックの実験性に焦点を当てながら移行し続けるサウンドが魅力的です。
またパンク・ロックはスカの領域の拡大にも成功しスカ・パンクに影響を与えました。1980年代中期から盛り上がり始めたサード・ウェーブ・スカ・リバイバルの余波からパンク・ロックの影響を受けて90年代に商業的な成功と共に確立したジャンルです。北アメリカでの動きが顕著でイギリスで確立した2トーンのサウンドをより複雑に新しい領域へと押し進めました。
スカ・パンクの代表
Operation Ivy - Energy 1989年作品
Catch 22 - Keasbey Nights 1998年作品
Rancid - ...And Out Come the Wolves 1995年作品