ジョジョとハード・ロック門口〈ジョジョの奇妙な冒険シリーズ〉第4回
アニメ版の第5部「ジョジョの奇妙な冒険」も終わりに近づいてるにもかかわらず、まだまだキャラクターに併せて音楽の紹介が出来てないのですがマイペースに紹介していけたらと思います。今回はナランチャ・ギルガのスタンドである「エアロスミス」にみられるハード・ロック音楽とその同時代のアルバム群の紹介。そして近年のハード・ロックの変容を少しずつ紹介します。
ナランチャ・ギルガについて
母親が目を患ったことが原因で早くに先立たれ、父親はナランチャを愛情の対象とは見ずに無関心でいたので、学校にも行かなくなり彼は友人の家を転々としたり万引きして過ごす内に「この世の中で一番大切なものは友情」という考えを持つようになります。
しかし、親友だと思っていた年上の男に罪を擦りつけられたことに気づき孤立していったところでブチャラティに拾われメンバーの一員となりました。
ジョジョの奇妙な冒険 50巻より引用
壮絶な過去を持つ第5部の多くの登場人物たちにとって過去のトラウマは、一見既に乗り越えた事として物語が進行しているように見えますがシーン毎にキャラクターが持つ各々のテーマが浮かび上がっていく構造を持ちます。
「友情」を第一に考えたナランチャにとってメンバーの存在は、自己が信じたい理想の姿でもあるように思います。
われらの他人に対する信仰は、われらがみずからの身に信じたいと思うところが、何であるかをあばく。われらの友への憧れは、われらの秘密のあばき手である。〈略〉友のなかに、最上の敵を持たねばならぬ。お前が彼に逆らうときにこそ、心は彼にもっとも近づいているというのでなくてはならぬ。
ニーチェは「超人」(人間を超えながらも人間であること)になるために孤独でなければならないと語ります。*1孤独な隠栖者にとって友は、「自分」と「自分」による自己対話で起きる盲目的深みに捉われる前にコルクとして役割を果たし「第三者」として客観的に防いでくれる存在でなければならない、そして情熱によって奴隷的状態を作る事も情熱への憧れによって暴君に従う事も友情では無いとニーチェは述べます。
物語の途中まで抱いていたジョルノへの不信感がスクアーロ達との戦闘で共通の希望を抱く事で解消されジョルノを指導者という表現を用いて信頼を築くのですが、その要因は徹底したジョルノの自己犠牲性にあると思います。
ジョルノにある他者と自己の曖昧な境界は逆境の只中に居る境遇の者であるからこそ持ち得る矜持として作品のテーマとしての訴求力になっているのだと思います。
また、曖昧性に共通してモンテーニュが語る友情は親子の関係でも兄弟でも恋人とも違う交流である事を述べます。
われわれがふつう友人と呼び友情と呼んでいるものは、それによってわれわれの魂がつながりあうことになるなんらかの偶然または便宜によって結びつけられて起こるもろもろの交際、親近関係にすぎない。わたしの言う友情の場合は、二つの魂がおたがいに相手のなかにまったく全面的な混合の仕方で混じりいり溶けこんでしまい、それらを結びつけているつなぎ目が消え、わからなくなっているほどなのだ。
モンテーニュ 「エセー1」より引用
自己と他者の曖昧性は仲間との決別の時に迫られたナランチャの他者の傷みを自分の傷みと重ねてメンバーを追う描写からもジョルノからの影響を見て取る事が出来ます。
この5部は特に敵と対峙している時にも物語のテーマをまるで対話をしているような場面が多々あるように思います。
ハード・ロックについて
1960年代中期から後期にかけてガレージ・ロックとブルース・ロックから生まれた形式の一つで、ヴォーカルとギターの歪み、パワーコードを全面に出したサウンドが特色です。パワーコードを特色とするサウンド性は同様にガレージ・ロックから派生したパンク・ロックにも見られる特徴です。のちにハード・ロックは様々なジャンルに影響を与えました。その代表の一つがグラム・ロックです。
ハードロック全般
Led Zeppelin - Led Zeppelin IV 1971年作品
Deep Purple - Machine Head 1972年作品
The Who - Quadrophenia 1973年作品
Cream - Wheels of Fire 1968年作品
Thin Lizzy - Jailbreak 1976年作品
Montrose - Montrose 1973年作品
AC/DC - Back in Black 1980年作品
UFO Phenomenon 1974年作品
Stray - Stray 1970年作品
Pearl Jam - Vitalogy 1994年作品
パール・ジャムはグランジの代表格ですがその中でもハード・ロックの要素が強いのが特徴的です。グランジはシアトルで生まれパンク・ロック、ハード・メタル、ハード・ロック、オルタナティブ・ロックの要素全てを吸収して成立したジャンルであり後にポスト・グランジに継承されました。
Black Sabbath - Paranoid 1970年作品
ブラック・サバスがハード・ロックなのかヘビー・メタルなのかという論争として出てくるのはもともとハード・ロックがAORからプログレッシブ・ロックまで取り入れた鵺のようなジャンルだったので必然でもあったのではないかと思います。
The Stooges - Fun House 1970年作品
ザ・ストゥージズはパンク・ロックの源流を汲み同時にハード・ロックの源流も汲んだサウンドを呈示しました。
Queen - A Night at the Opera 1975年作品
ハード・ロックの説明にもあるグラム・ロックの要素とThe Whoにも見られるロック・オペラの要素を混合させた事もクイーンの功績の一つです。
近年のハード・ロック
The Hazytones - The Hazytones 2016年作品
カナダで結成されたThe Hazytonesのファーストアルバム。ハード・ロックとも関連するストーナー・ロックを近年のハード・ロックに対応させたサウンド性が特徴的なです。
Kvelertak - Nattesferd 2016年作品
Kvelertakはハードコア・パンクの土台をブラックンロールやクラスト・パンクやハード・ロックなどを巧みに融合させるサウンドが特徴でこの作品は下の過去作に比べて全面にハード・ロックの特徴が出ている傑作です。
ブラックンロールの特徴はこの曲を聴いても分かるようにロックンロールのリズムを拝借しつつハード・ロック、グラム・ロックの要素をブラック・メタルの新たな枝分かれに昇華したジャンルです。
Graveyard - Hisingen Blues 2011年作品
スウェーデンで結成されたGraveyardのサウンドの特徴は古典的なジャンルを踏襲をしながらハード・ロックとブルースを使い分けストーナー・ロックのような重い領域にも瞬時に切り替えれるサウンドの幅です。
Uncle Acid & The Deadbeats - Wasteland 2018年作品
Uncle Acid & The Deadbeatsのサウンドは明らかに古典的なサイケ色が強いのにトラディショナル・ドゥームメタルに「Blood Runner」のようなモーターヘッドに見られるようなスピードメタルとハード・ロックが融合して出来た「異質な不均衡」が痙攣的興奮のポリテス(礼儀)