ANEMONE 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューションの記号から知るテクノ 後編
前編に引き続き後編もエウレカセブンのキーワードからテクノ周辺や現行のテクノを紹介します。
前作の「ハイエボリューション」ではチャールズ夫妻を中心に展開していたがTV版のエウレカセブンではチャールズ夫妻を疑似家族を経た先の通過儀礼のような役割が担われていたように思いますがリブート版ではアネモネの親子観がどのような役割に今後移るのか期待しています。後半ではキャラクター編としてテクノ音楽を紹介します。
- 石井賢
アネモネの父。特殊潜入部隊IAG303の隊長。
出典 https://eurekaseven.jp/character/
ここまでそのままだと楽しくなります。もちろん石井賢の名前の由来はKen Ishiiですね。
Ken Ishiiは札幌出身のアシッド・テクノ/デトロイト/アンビエント・テクノアーティストです。彼の代表作の一つ「Jelly Tones」は従来のデトロイト・テクノが煌々と明滅するナイトライフな音に対してフューチャリスティック的サウンドが素晴らしく、その特徴は彼がミックスしたプレイステーション用ゲーム「LSD」のサウンドトラックである「Long Tall Eyelash」でも顕著です。2018年にリリースした「Revamped盤」ではHyperdub所属の東京出身のQuarta330によるリミックス「Say Cheeze」や長谷川白紙による「Come On And」が聴けます。
また、プレイステーション2/ドリームキャスト用ゲーム「Rez」のBGMにもトラックを提供している。
- ゲームにおけるテクノ/ハウス
ゲームの中でテクノとして位置付けられた音楽があります。ここで少し紹介します。
1991年からメガドライブ用のソフトとして発売された「ベア・ナックル」シリーズの音楽を手掛ける古代祐三氏(IIIでは川島基宏氏も制作)の音楽はゲームにおけるアシッド/テクノとして現在位置付けられています。
ベア・ナックルIII 1994年作品
1993年にメガCD用に発売した「ソニック・ザ・ヘッジホッグCD」にもハウス要素が随所に散りばめられています。その他のソニックシリーズにも多くのハウスやテクノを主要とした音楽構成がされている作品があります。
1998年にニンテンドー64用に発売した「ボンバーマンヒーロー ミリアン王女を救え!」の作品の中では主にドラムンベースに重きを置いたトラックの中にジャズステップやアンビエント・ハウスの断片的な要素を取り入れたような音が豊かです。
「ボンバーマンヒーロー ミリアン王女を救え!」 1998年作品
ドラムンベースのテイストは寺田創一氏が制作した1999年のプレイステーション用作品「サルゲッチュ」でも多用されています。
ドラムンベースは1990年初めにイギリスから形成されたエレクトロニック音楽の一つです。通常のテクノサウンドのBPMに比べて早い事が特徴でビートの中にポリリズムやシンコペーションが組み込まれています。
「サルゲッチュ・オリジサル・サウンドトラック」 2011年リリース
1996年にプレイステーション用に発売した「ワイプアウト」ではアシッド・トランスの成分を抽出した曲が多くを占めます。それはこの「ワイプアウト」が欧州のスタジオが作った事に関連していると思います。アシッド・トランスは1990年初期にヨーロッパの中でも、とりわけベルギーで人気の高いジャンルでした。それ以前にドイツで主要となっていたトランスと違うのはローランド・TB-303のモジュレーションによる音作りが大きいと思います。
「ワイプアウト」 1995年(日本は1996年)作品
そのアシッド・トランスの代表格が前作の「ハイエボリューション」の冒頭のシルバーボックス(音響兵器)が稼働する際に流れたHardfloorです。
(本編で流れたのはAcperience 7)
「TB Resuscitation」 1993年作品
近年のゲーム内のテクノはウィッチ・ハウス*1やダブ・テクノといったサウンドが導入されるようになります。2017年に発売された「Ruiner」ではスチームパンクとテクノの特性を融合した作品に仕上がった作品です。
「Ruiner」 2017年作品
- スーパー 6
エウレカセブン*2内にダイブしたまま帰還する事が無かったアネモネ以前に起用された部隊。
出典 https://eurekaseven.jp/character/
SNS上でスーパー6が全てミニマル・テクノやダブ・テクノの楽曲名がモチーフになっているとの情報を知りました。(それまで気づきませんでした)
6人ともテクノの曲名だ。
— うぷ (@updy_) 2018年11月13日
Dave Clarke - Red 2
Ken Ishii - Extra
Sueno Latino – Sueno Latino
電気グルーヴ - キラーポマト
Orbital - Chime
Green Velvet - La La Land
「エウレカ」アネモネ以前に活躍した“スーパー6”の設定画到着、名前も明らかに - 映画ナタリー https://t.co/wnCIXU5dEV
一人ずつキャラクターに付けられているアーティストと関連アーティストを紹介します。
レッド・ツゥ
Dave Clarkeはブライトン出身。
Dave Clarkeは今日のテックハウスとローテクなキーボードやボコーダーを主軸にするエレクトロクラッシュな要素を保有している音が特徴です。内省的なテックハウスと接近した事で本来のエレクトロクラッシュとの差別化やそれとは違った魅力が表現されています。
「Devil's Advocate」 2003年作品
ここでエレクトロクラッシュの代表も少し取り上げます。
「Witching Hour」2005年作品
Peaches
「The Teaches of Peaches」2000年作品
エクス・トラ
冒頭に紹介したKen Ishiiからの楽曲に由来。
末野・ラ・ティーノ
Sueño Latinoはイタリアのイタロ・ハウス*3アーティストです。
Sueño Latinoのサウンドは当時のイタロ・ハウスとは全く違った傾向の構成で出来ています。当時はClio & Kayのようなダンス・ポップの要素を濃く取り入れたサウンドに対してSueño Latinoのサウンドは今日のトロピカル・ハウスの響きに通ずると思います。
「Sueño Latino The Latin Dream」 1989年作品
キラ・ポマト
電気グルーブの「キラーポマト」に由来。電気グルーブは稀有な日本的エレクトロ・ハウスの代表で説明不要なアーティストで個人的に電気グルーブが関わったアニメ作品には良作が多いのではないかと勝手に思っています。ここでは電気グルーブとは異なるエレクトロ・ハウスを紹介します。
GusGus
「Add This Song」 2009年作品
GusGusはレイキャヴィーク出身のテックハウス/エレクトロ・ハウスを基調とするコンパクトレーベル所属のアーティストです。今年リリースした「Lies Are More Flexible」ではイタロ・ディスコの要素とも接近してアルバムによって要素が分裂している事が度々ある所から鑑みて近年のアーティストの傾向では当たり前になって久しいような感覚がします。
Linkwood
「Fresh Gildans 」 2018年作品
Linkwoodはブリストル出身。1990年初期にトリップホップを生んだブリストルは後の2000年代にパープル・サウンドを生みましたがLinkwoodはダブステップ崩壊後のサウンドには行かず従来のディープ・テクノの更新を追求しました。このEPでは実験的なアンビエントの要素も伺えて興味深いです。
チャイム
セブノークス出身のIDMの代表であるOrbitaに由来。
open.spotify.com「In Sides 」 1996年作品
Orbitalは前編にも紹介したブリープ・テクノも曲によって散見されます。
充湓したIDMを紹介するのは途方も無いので今年リリースされた作品を紹介します。
Brainwaltzera
「Epi-Log」 2018年作品
Brainwaltzeraは2016年からサウンドクラウド上で作品をリリースしているベルリンを拠点に活動している謎のアーティストです。アンビエントなテイストが濃いですがIDMの持っている諸相を含みながら展開しているのが特徴で昨今のニューエイジの再燃もしくはアップデートに通ずる所も見られてこれかも楽しみな人物です。
Richard Devine
「Sort\Lave」 2018年作品
Richard Devineはアトランタ出身。
モジュール式のシンセサイザーとフラッシュコアをIDMというはっきりした形に具象させ、局所的に有機的なサウンドで構成されています。解体された個体ではなくシームレスな液体としてグリッチの要素も加わった傑作だと思います。
mmph
ボストンを拠点に活動するアーティスト。
Tri Anglよりリリースされた「Serenade」には近年のUK BASSのような鋭利でけたたましい喧騒は感じられずむしろIDMに圧縮され細分化されたようなサウンドが魅力的です。
Green Velvetの楽曲に由来。
Green Velvetはシカゴ出身なのですが名義が沢山あり活動も多岐に渡ります。ここでは彼のもう一つの名義Cajmereで顕著なゲットー・ハウスの側面を紹介します。
「Percolator 」 1992年作品
1980年代中期のハウスミュージックは主に北側の富裕層を中心に流れたサウンドだったのに対してゲットー・ハウスはスラム街近辺を中心に独特なスタイルを築いて行きました。特徴としては通常のBPMより早い(140〜)ビートに複雑なドラミングパターンを構成しサンプリングによるヴォーカルの使用が顕著です。これらのゲットー・ハウスに影響を受けたのがジュークで独特なシンコペーションを伴いながら実験を重ねながら確立しました。
Entrancer
Entrancerはデンバー出身。
2009年にHideous Menとして活動していた彼はスタイル変えて2011年よりEntrancerとして活動します。アシッド・テクノの中にジュークの要素を抑えながらミニマルな音として表現している事が特徴です。
EQ Why / Traxman
「WhyTrax 」 2018年作品
ジューク代表のTraxmanと新人EQ Whyによる共作。
もともとシカゴで育ったEQ Whyにとって自然な音楽だったと思うのですがこのアルバムが面白いのはOrange Milk Recordsからリリースされた事でそのテイストがフィルターされている事です。ジュークの一新にも繋がる作品でもあると思います。