幻想の音楽逍遥ツウシン

散文的な考察と諸々の文化を交えて音楽をディスクガイド的に書いてます。

ジョジョとニュー・ジャック・スイングを知る目印〈ジョジョの奇妙な冒険シリーズ〉第1回

ジョジョの奇妙な冒険」の第5部が今年の10月にアニメ化されました。

初めて自分がこの作品を知った部であり、一番好きな部でもあります。

今からこの作品に触れる方々に配慮し、アニメの進行を先回りする事は避けて、とりわけこの作品特有の概念である「スタンド」に冠された音楽の周辺作品や現行の音楽を無理矢理、少しずつディスクガイド的に紹介します。

 

 

  • 登場人物達の正義

 第5部のテーマの一つに正義があると思いますがこの部においての正義は「信じる」という行為が主人公であるジョルノ・ジョバァーナ達にとっての正義なんだと思います。

作者の荒木飛呂彦氏はこの5部についてこんな言及をしています。

 

とにかく第5部では居場所のない人間を描きたかったんですよね。

もうそこに行くしかないという。

ユリイカ 第39巻14号より引用

両親に愛されず、生きる目的が持てなかったジョルノが一人のギャングを助けた事により他者を信じることを学ぶ。その男の生き方に憧れを抱く過程が漫画の序盤で明かされます。「そこに行くしかない人間達」にしか共有できない徳や正義(プリンシプル)を描写する事で単調ではない人間模様の奥行きが物語に表出していくのが魅力的です。

 

 

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ジョジョの奇妙な冒険 49巻より引用

 

 

  • 空間を抽出して漂う扇情的エロティシズム

 

この作品がファッション性やエロスと密接に関係しているといった雑誌の記事を度々目にするのですが特に「黄金の風」から対峙する敵にもファッショナブルな服を纏っている事から、以前に荒木氏が『週刊少年「」』で「バビル二世」について「学生服を着ている少年が砂漠に居るのが良い」と語っていますが、この第5部「黄金の風」もギャングがハイエンドで奇抜な服を着ているというシチュエーションに主眼を置いている中でキャラクター達が決意し、行動する瞬間(空間)を支配して独特のポージングにファッションやエロスを落とし込んだマンガ的造形が形成され、そして体現されていったのだと思います。

ジョルノのハート型に象られた衣服や、グイード・ミスタの腹部が露出したセーターもそうですがキャラクターが中性的になっていった事で従来からあったホモソーシャルな面とホモセクシャル性が混同していったのではないかと思います。

 

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ジョジョの奇妙な冒険 50巻より引用 

 

古代ギリシアではエラメネスという少年がエラステスという年上の男性から求愛のプロセスや芸術や教養を教わる文化がありましたが、この作品では最年少であるジョルノが何度も遭遇する危機的状況の場面を通して年上である仲間達を成長させる所はとても興味深いです。

 

  • ニュー・ジャック・スイング指標

中性的なのはキャラクターだけでは無い。

各々が持つスタンドにもその特徴が表れている。ジョルノのスタンドであるゴールド・エクスペリエンスのモデルが2016年に亡くなったプリンスから来ている(荒木氏はプリンスを一番好きなアーティストに挙げている)事はよく知られている。このアルバムをリリースした時のプリンスの名義はO(+>で男性記号と女性記号を掛け合わせたものになっている。

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The Gold Experience 1995年作品

 

プリンスの音楽の目安を手探りしようとしても取り入れられた要素が無数にあり一つのジャンルから紐解こうとするのは困難です。今回は第5部のアニメのエンディングテーマを担当したJodeciジョデシィ)の音楽的特徴の一つ「ニュー・ジャック・スイング」をディスクガイドのように少しずつ取り上げます。

 

「ニュー・ジャック・スイング」は1980年後半から1990年代に多く流れていた音楽の一つです。その主なサウンドの多くはヒップホップやファンクの技術に「コンテンポラリーR&B」の要素を混ぜたスタイルが特徴的です。(ゴールド・エクスペリエンスにもそういった要素が含まれています)ジョデシィの特徴は「ニュー・ジャック・スイング」と「Gファンク」の特徴を兼ねたサウンドです。

 「Show the After Party the Hotel」 1995年に収録

 

ジョデシィアメリカのシャーロット州出身のアーティストです。

第5部のエンディング曲「Freek 'n You」は「コンテンポラリーR&B」の特色が強い仕上がりでコーラスが多用されるのも特徴です。(Gファンクにも似た特徴があります)

JOJOという名前のメンバーが居ます。Nasの「It Was Written」で「Black Girl Lost」という曲に参加。

 

 「It Was Written」1996年作品

 

 

 

Tony Toni Toné は1988年に結成したオークランド出身のアーティスト。

サードアルバムの「Sons of Soul 」はソウルのエッセンスをニュー・ジャック・スイングと組み合わせた傑作。

 

 「Sons of Soul 」1993年作品

  

Keith Sweat(キース・スウェット)はマンハッタン出身ニュー・ジャック・スイングの先駆的なアーティスト。(LSGのメンバーでもあります)Keith Sweatはポップ・ソウルな要素をコーティングする事で温かみのあるサウンドが展開していくのが特徴です。

 

「Make It Last Forever」1987年 作品

 

Karyn White(キャリン・ホワイト)はロサンゼルス出身のソウルシンガーです。

セカンドアルバムではBabyface(ベイビーフェイス)によるプロデュースでアルバムをリリース。80年代を中心に流れていたダンス・ポップ(今も再燃中)とニュー・ジャック・スイングの一線を越え、キャリンの歌い上げるヴォイスの組み合わせは秀逸。(もっと聴かれて良いアルバムだと思います)

 

 「Karyn White」1988年 作品

 

Kindnessはイギリスのロンドン出身のアーティスト。

Trouble Funkの「Still Smokin'」をサンプリングしたりニュー・ディスコやオルタナティブR &Bやシンセ・ファンクな要素を取り入れた事でニュー・ジャック・スイングのアップデートを果たしたアーティスト。

 

「World, You Need a Change of Mind」2012年作品